認知症と誤診されやすい病気5選〜実は治るかもしれない症状〜

「最近、物忘れがひどくなった」「家族が同じことを何度も聞いてくる」—こうした変化に気づいたとき、多くの人が真っ先に「認知症ではないか」と不安を感じます。しかし、認知症のような症状を示しながらも、適切な治療によって改善する可能性がある病気や状態が存在することをご存知でしょうか。

この記事では、認知症と間違われやすい5つの病気・状態について、その特徴や見分け方、治療法までを医学的根拠に基づいて解説します。「認知症かもしれない」と諦める前に、ぜひこの情報を参考にしてください。

目次

  1. なぜ誤診が起こるのか?
  2. うつ病(特に高齢者のうつ)
  3. せん妄(急性混乱状態)
  4. 薬剤の副作用
  5. ビタミン欠乏症
  6. 甲状腺機能低下症
  7. 見逃さないためのチェックポイント
  8. 専門医への相談と適切な検査

なぜ誤診が起こるのか?

認知症は、記憶障害や判断力の低下、言語能力の変化など、幅広い認知機能の低下が特徴の症候群です。しかし、これらの症状は認知症に特有のものではなく、他の多くの疾患でも現れることがあります。

東京医科大学老年内科の佐藤教授によると、「高齢者の認知機能低下を見たとき、医療者でさえも安易に『年齢相応』や『認知症の始まり』と判断してしまうことがあります。実際には、適切な治療で改善する『可逆性認知症』の可能性を常に念頭に置くべきです」と指摘しています。

可逆性認知症とは、認知症様の症状を示すものの、原因となる疾患の治療により症状が改善するものを指します。早期発見と適切な対応が、症状の改善や進行の抑制につながる可能性があるのです。

うつ病(特に高齢者のうつ)

症状と特徴

高齢者のうつ病は、典型的なうつ病とは異なる症状を示すことがあります。悲しみや憂うつといった感情の変化よりも、以下のような認知症に似た症状が前面に出ることがあります:

  • 記憶力や集中力の低下
  • 意欲の減退
  • 決断力の低下
  • 思考の緩慢化
  • 身体症状(食欲不振、睡眠障害、疲労感)の訴え

これらの症状から、「仮性認知症」や「うつ病性認知症」と呼ばれることもあります。

認知症との違い

京都大学精神科の山田医師は、「うつ病による認知機能低下と実際の認知症を見分けるポイントは、症状の経過と訴え方にあります」と説明します。

  • 発症の経過: うつ病は比較的急速に(数週間から数ヶ月で)発症することが多く、認知症は通常緩やかに進行します
  • 自覚と訴え: うつ病患者は物忘れを詳細に訴え、悩む傾向がある一方、認知症患者は自分の記憶障害を過小評価したり、隠そうとしたりすることがあります
  • 気分の変動: うつ病では一日の中で変動する気分に伴って認知機能も変化することがあります
  • 検査結果: うつ病では「わからない」と答えることが多いのに対し、認知症では誤った答えを確信を持って述べることがあります

治療と改善可能性

抗うつ薬による薬物療法と心理療法の組み合わせが基本的な治療法です。高齢者の場合は、副作用に注意して薬剤を選択し、低用量から開始することが一般的です。うつ病が適切に治療されると、認知機能も改善することが多いとされています。

回復事例: 70歳の田中さん(仮名)は、配偶者を亡くした後、急速に物忘れが進み、料理や買い物ができなくなりました。家族は認知症を疑いましたが、精神科を受診したところうつ病と診断されました。抗うつ薬の服用と定期的なカウンセリングを6ヶ月継続した結果、日常生活能力が回復し、記憶力も改善しました。

せん妄(急性混乱状態)

症状と特徴

せん妄は、短期間で急激に発症する意識障害と認知機能の混乱状態です。主な特徴は以下の通りです:

  • 注意力の著しい低下
  • 意識レベルの変動(日中は比較的落ち着いているが、夕方から夜間にかけて悪化する「サンダウニング現象」がみられることも)
  • 思考の混乱、支離滅裂な会話
  • 見当識障害(時間・場所・人物がわからなくなる)
  • 幻覚や妄想
  • 睡眠-覚醒サイクルの乱れ

認知症との違い

国立長寿医療研究センターの木村医師は、「せん妄と認知症の最大の違いは発症の仕方と経過です」と指摘します。

  • 発症の急激さ: せん妄は数時間〜数日という短期間で突然発症します
  • 変動性: せん妄の症状は一日の中でも大きく変動します
  • 原因の存在: せん妄には必ず何らかの身体的または環境的原因があります
  • 可逆性: 原因を取り除くことで改善が期待できます

主な原因

せん妄を引き起こす主な原因には以下のものがあります:

  • 感染症(肺炎、尿路感染症など)
  • 脱水や電解質異常
  • 薬剤(特に抗コリン作用のある薬、睡眠薬、鎮痛剤など)
  • 臓器不全(肝不全、腎不全など)
  • 低酸素状態
  • 手術後の状態
  • 環境変化(入院や施設入所など)
  • アルコールやベンゾジアゼピン系薬剤の急な中断

治療と改善可能性

せん妄の治療では、原因となっている疾患や状態の改善が最も重要です。同時に、安心できる環境の提供、適切な水分・栄養補給、睡眠-覚醒リズムの調整などが行われます。原因が適切に治療されれば、多くの場合、認知機能は元の状態に回復します。

回復事例: 83歳の佐藤さん(仮名)は、尿路感染症で入院した際、突然「家に帰る」と言って病室を出ようとし、「見知らぬ人が部屋に入ってくる」という幻視も訴えるようになりました。家族は認知症の急激な悪化を心配しましたが、医師はせん妄と診断。感染症の治療と水分補給、環境調整を行った結果、1週間後には混乱状態が改善し、元の認知状態に戻りました。

薬剤の副作用

認知機能に影響を与える薬剤

多くの薬剤が、特に高齢者において認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。主なものには以下があります:

  • 抗コリン作用を持つ薬剤:抗ヒスタミン薬、一部の抗うつ薬、頻尿治療薬、消化管けいれん治療薬など
  • ベンゾジアゼピン系薬剤:睡眠薬や抗不安薬
  • オピオイド系鎮痛薬
  • 一部の降圧薬
  • ステロイド薬(特に高用量)

認知症との違い

大阪市立大学薬学部の高橋教授によると、「薬剤性の認知機能障害は、薬の使用開始や用量変更と症状出現の時期が一致することが多い」という特徴があります。

  • 時間的関連性: 薬の開始・増量と症状発現の間に明確な関連がある
  • 症状の出現パターン: 急性〜亜急性(数日〜数週間)で発症することが多い
  • 他の副作用: めまい、ふらつき、口渇、便秘などの他の副作用を伴うことがある
  • 改善の可能性: 原因薬剤の中止や減量により改善することが多い

対処法と注意点

薬剤による認知機能低下が疑われる場合、以下の対応が重要です:

  • 自己判断で薬を中止せず、必ず医師に相談する
  • 服用している全ての薬(市販薬やサプリメントを含む)を医師・薬剤師に伝える
  • 高齢者では複数の医療機関からの処方(ポリファーマシー)に注意
  • 定期的な薬剤の見直しを医師に依頼する

回復事例: 75歳の鈴木さん(仮名)は、不眠と不安に対して長期間睡眠薬を服用していました。次第に昼間のぼんやりした状態や物忘れが目立つようになり、家族は認知症を疑いました。かかりつけ医に相談したところ、睡眠薬の減量と別のアプローチ(認知行動療法、生活リズムの調整)を提案されました。3ヶ月かけて薬剤を調整した結果、認知機能は著しく改善しました。

ビタミン欠乏症

認知機能に影響するビタミン

特にビタミンB群の欠乏は、認知機能に大きな影響を与えることがあります:

  • ビタミンB1(チアミン): 不足すると、記憶障害、混乱、無気力などの症状が現れます。アルコール依存症の方で特に注意が必要です。
  • ビタミンB12: 欠乏すると、記憶障害、思考の緩慢化、抑うつ、錯乱などを引き起こします。
  • 葉酸(ビタミンB9): 不足すると認知機能低下や抑うつ症状が現れることがあります。

認知症との違い

東北大学栄養学科の伊藤教授は、「ビタミン欠乏による認知機能障害は、他の身体症状を伴うことが多い」と説明します。

  • 身体症状の併存: ビタミンB12欠乏では舌の痛み、しびれ、歩行障害などを伴うことがある
  • 既往歴・生活歴: 偏食、アルコール多飲、胃切除の既往、ベジタリアン・ビーガン食などのリスク因子がある
  • 進行速度: 比較的短期間(数ヶ月)で進行することが多い
  • 血液検査: 特定のビタミンレベルの低下が確認できる

リスク要因と注意すべき人

ビタミン欠乏のリスクが高い人には以下のような方がいます:

  • 高齢者(特に一人暮らしで食事が偏りがちな方)
  • アルコール依存症の方
  • 厳格なベジタリアンやビーガン(特にB12サプリメントを摂取していない場合)
  • 胃切除や腸の吸収障害のある方
  • 特定の薬剤(メトホルミン、プロトンポンプ阻害薬など)の長期服用者

治療と改善可能性

欠乏しているビタミンを補充することで、症状の改善が期待できます。初期には注射による補充が行われることもあります。栄養バランスの良い食事の指導と、必要に応じたサプリメント摂取も重要です。

回復事例: 68歳の山本さん(仮名)は、徐々に進行する記憶障害と手足のしびれを訴えて受診しました。精密検査の結果、厳格なベジタリアン食によるビタミンB12欠乏症と診断されました。B12の注射と経口サプリメントの併用により、3ヶ月後には記憶障害は大幅に改善し、しびれも軽減しました。

甲状腺機能低下症

症状と特徴

甲状腺ホルモンの分泌不足により、体のあらゆる代謝プロセスが低下する疾患です。高齢者では典型的な症状が現れにくく、以下のような認知症様の症状が前面に出ることがあります:

  • 思考の緩慢化
  • 記憶力低下
  • 集中力の低下
  • 無気力・無関心
  • 抑うつ状態

これらの症状から「粘液水腫性認知症」と呼ばれることもあります。

認知症との違い

慶應義塾大学内分泌内科の中村医師によると、「甲状腺機能低下症による認知機能障害は、他の特徴的な身体症状を伴うことが多い」とされています。

  • 身体症状: 倦怠感、寒がり、体重増加、皮膚乾燥、便秘、声のかすれ、むくみなど
  • 症状の変化: 数ヶ月かけて徐々に進行することが多い
  • 検査所見: 血液検査でTSH上昇、fT4低下が確認できる
  • 治療反応性: ホルモン補充療法により改善することが多い

リスク要因と発見のポイント

甲状腺機能低下症のリスクが高い人には以下のような方がいます:

  • 60歳以上の女性(特に)
  • 自己免疫性甲状腺疾患の家族歴がある方
  • 放射線治療の既往がある方
  • 甲状腺手術を受けた方
  • リチウムやアミオダロンなどの薬剤を服用している方

治療と改善可能性

甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン)の補充療法が基本的な治療法です。高齢者では低用量から開始し、慎重に増量します。適切な治療により、多くの認知症様症状は改善することが報告されています。

回復事例: 72歳の高橋さん(仮名)は、6ヶ月にわたり徐々に進行する無気力、記憶障害、動作緩慢を主訴に受診しました。家族は認知症の進行を懸念していましたが、詳細な問診で便秘や寒がりといった症状も確認され、血液検査の結果、甲状腺機能低下症と診断されました。レボチロキシンによる治療開始から2ヶ月で明らかな改善が見られ、6ヶ月後には認知機能はほぼ正常に回復しました。

見逃さないためのチェックポイント

認知症と間違われやすい症状に気づくために、以下のポイントをチェックしましょう:

症状の出現パターン

□ 症状の出現は急激だったか(数日〜数週間) □ 一日の中で症状に変動があるか □ 夕方から夜間に症状が悪化するか □ 特定の薬の使用開始や用量変更と時期が一致しているか

併存する症状

□ 抑うつ気分、意欲低下、不安感がめだつか □ 体重変化(増加または減少)があるか □ 睡眠パターンの変化はあるか □ 身体的な症状(しびれ、歩行障害、便秘など)を伴うか □ 本人の物忘れの自覚と訴えはどうか

背景情報

□ 最近の入院歴や大きな環境変化はあったか □ 複数の薬を服用しているか □ 食生活に偏りはないか □ アルコール摂取の習慣はあるか □ 甲状腺疾患の家族歴はあるか

専門医への相談と適切な検査

認知症様の症状が見られる場合、可能であれば「もの忘れ外来」や「認知症専門外来」などの専門医療機関を受診することをお勧めします。かかりつけ医に相談し、適切な医療機関を紹介してもらうことも一つの方法です。

受診の際に準備しておくとよいこと

  • いつ頃から、どのような症状が、どのように変化してきたかをメモしておく
  • 現在服用している薬(処方薬、市販薬、サプリメントなど)をすべて持参する
  • 日常生活での困りごとや変化を具体的に伝えられるようにしておく
  • 可能であれば家族や身近な人に同席してもらう

認知症様症状の評価に行われる主な検査

  • 認知機能検査: MMSE、HDS-R、MoCAなどの簡易検査
  • 血液検査: 貧血、炎症、肝機能、腎機能、電解質、甲状腺機能、ビタミンB12、葉酸など
  • 画像検査: 頭部CT、MRIなど
  • その他: 状況に応じて脳波検査、髄液検査、SPECT検査なども

まとめ:諦めずに適切な医療を求めることの大切さ

認知症と似た症状を示す疾患・状態は数多くあり、その中には適切な治療で改善が期待できるものがあります。特に高齢者の認知機能低下を見たとき、「年だから仕方ない」と諦めるのではなく、専門医による詳細な評価と診断を受けることが重要です。

早期発見と適切な治療が、本人の生活の質を大きく左右することもあります。この記事で紹介した5つの疾患・状態(うつ病、せん妄、薬剤の副作用、ビタミン欠乏症、甲状腺機能低下症)について理解を深め、ご自身や大切な方の健康を守るための一助としていただければ幸いです。

ただし、これらの疾患・状態を除外した上で、実際に認知症と診断された場合も、現在では様々な治療や支援の選択肢があります。いずれの場合も、適切な医療・介護サービスを利用しながら、その人らしい生活を続けていくことが大切です。


※この記事の情報は2025年4月時点のものです。医学的知見は日々更新されますので、実際の診断や治療については医療専門家にご相談ください。

※記事中の事例はプライバシー保護のため仮名を使用し、複数の事例をもとに再構成しています。

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