「仕事と介護の両立」という言葉は簡単ですが、実際に直面すると想像以上の困難があります。日本では年間約10万人が介護のために仕事を辞めていると言われています。しかし、知識と準備があれば、必ずしも「仕事か介護か」という二者択一を迫られるわけではありません。この記事では、介護離職を防ぐために知っておくべき制度や働き方、実際の成功事例を紹介します。
目次
- 介護離職の現状と影響
- 知っておくべき公的支援制度
- 企業の介護支援制度を活用する
- 柔軟な働き方の選択肢
- 両立のための実践的なヒント
- 成功事例に学ぶ
- 相談窓口と情報収集のポイント
- 介護と仕事の両立のための準備チェックリスト
介護離職の現状と影響
介護離職は本人のキャリアだけでなく、経済的な側面にも大きな影響を及ぼします。総務省の調査によれば、介護離職者の約7割が女性であり、40〜50代の働き盛りに集中しています。
介護離職による影響:
- 収入の減少: 平均すると年間300〜400万円の収入が失われるとされています
- 年金への影響: 将来の年金額にも響きます
- 再就職の難しさ: 一度離職すると、同等の条件での再就職は困難なことが多い
- 介護費用の負担増: 収入が減る一方で、介護費用は継続的に発生
介護は突然始まることも多く、「まさか自分が…」と思っている方でも、いつ当事者になるかわかりません。早めの情報収集と準備が重要です。
知っておくべき公的支援制度
介護保険制度の基本
介護保険は40歳以上の全国民が加入する公的制度で、必要に応じたサービスを利用できます。
利用までの流れ:
- 市区町村の窓口に「要介護認定」の申請
- 訪問調査と審査会による判定
- 要支援1〜2、要介護1〜5の区分認定
- 認定結果に基づいたケアプラン作成
- サービス利用開始(原則1〜3割の自己負担)
主なサービス:
- デイサービス(日帰りの通所介護)
- ショートステイ(短期入所)
- 訪問介護(ホームヘルパー)
- 訪問看護
- 福祉用具のレンタル・購入
介護休業制度
労働者が家族の介護のために取得できる法定の休業制度です。
ポイント:
- 対象家族1人につき通算93日まで
- 3回まで分割して取得可能
- 期間中は原則無給だが、雇用保険から「介護休業給付金」として賃金の67%相当が支給
- 介護休業給付金は非課税
介護休暇制度
ポイント:
- 年間5日(対象家族が2人以上なら10日)
- 時間単位での取得も可能
- 有給か無給かは企業によって異なる
介護のための時短勤務制度
ポイント:
- 事業主は、介護を行う労働者に対して、時短勤務等の措置を講じる義務がある
- 利用可能期間は対象家族1人につき3年間以上
- 時短勤務、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、在宅勤務など
介護離職防止支援コーディネーター
2021年度から導入された比較的新しい制度で、地域包括支援センターなどに配置されています。仕事と介護の両立に関する相談や情報提供を行っています。
企業の介護支援制度を活用する
法定の制度に加え、企業独自の支援制度も増えています。自社の制度を十分に理解し、活用することが重要です。
確認すべき企業独自の制度例
- 介護特別休暇: 法定以上の日数や有給での休暇制度
- 介護支援金: 介護サービス利用に対する補助金
- 介護コンサルティングサービス: 専門家による相談窓口の提供
- 介護セミナー: 社内での情報提供やノウハウ共有
- 在宅勤務制度: テレワークやリモートワークの活用
- ジョブシェアリング: 業務の分担による負担軽減
- 再雇用制度: 介護離職後の再雇用保証
人事部門への相談のポイント
- 早めの相談: 介護が必要になってからではなく、その兆候があった時点で
- 具体的な状況説明: 介護の状況や必要となる支援を明確に
- 希望する働き方の提案: 理想的な勤務形態を自ら提案する
- 定期的な状況共有: 介護状況の変化に応じて継続的な相談を
先進的な企業では「仕事と介護の両立支援ハンドブック」などを作成し、従業員に情報提供しているケースもあります。自社の制度について、改めて確認してみましょう。
柔軟な働き方の選択肢
介護と仕事の両立には、柔軟な働き方が鍵となります。
テレワーク・在宅勤務
コロナ禍での広がりにより、多くの企業で導入が進みました。
メリット:
- 通勤時間の削減
- 急な対応が必要な場合でも即座に動ける
- 介護の合間に業務を行える
活用のコツ:
- オンとオフの切り替えを明確に
- コミュニケーションツールを工夫
- 仕事の成果を可視化する
フレックスタイム制
メリット:
- 介護サービスの時間に合わせて勤務時間を調整可能
- 朝や夕方の介護が必要な時間帯に対応しやすい
活用のコツ:
- コアタイム(必ず勤務すべき時間帯)を把握
- チーム内で業務の引継ぎ体制を整える
時短勤務
メリット:
- 継続的に一定の時間を介護に充てられる
- 身体的・精神的な負担軽減
注意点:
- 収入減への対応策を検討しておく
- 業務効率化の工夫が必要
副業・兼業
本業の勤務時間を減らし、より柔軟な働き方ができる副業を組み合わせる選択肢も。
検討ポイント:
- 本業の副業規定の確認
- スキルを活かせるフリーランス的な働き方
- オンラインでできる仕事の検討
ジョブシェアリング
一つのポジションを複数人で分担する働き方も広がりつつあります。
メリット:
- 責任ある仕事を継続できる
- 勤務日や時間を柔軟に調整可能
両立のための実践的なヒント
職場への伝え方と協力体制の作り方
- 上司への報告: 介護の状況を包み隠さず伝える(必要以上に詳細である必要はない)
- チームメンバーとの共有: 突発的な休みが必要になる可能性があることを共有
- 仕事の可視化: 自分の担当業務を文書化し、不在時にも対応できるよう準備
- 業務の優先順位付け: 重要度と緊急度で業務を整理
介護サービスの効果的な組み合わせ方
- ケアマネジャーとの連携: 就労状況を伝え、働きながら介護できるプランを依頼
- デイサービスの活用: 勤務時間中に利用できるよう調整
- ショートステイの計画的利用: 繁忙期に合わせて利用を計画
- 訪問サービスの組み合わせ: 在宅勤務日に合わせて訪問サービスをスケジュール
タイムマネジメントの工夫
- 「介護+仕事」カレンダーの作成: 両方のスケジュールを一元管理
- 隙間時間の有効活用: 短い時間でできる業務をリスト化
- 定期的な業務の棚卸し: 不要な業務を減らす
- デジタルツールの活用: リマインダーやタスク管理アプリの利用
遠距離介護のポイント
- キーパーソンの確保: 近くに住む親族や知人との連携
- IoT機器の活用: 見守りセンサーやスマートスピーカーの設置
- 地域包括支援センターの活用: 定期的な情報共有の仕組み作り
- オンライン診療・服薬指導の利用: 遠方からでも医療面をサポート
成功事例に学ぶ
事例1: Aさん(45歳・IT企業勤務)の場合
Aさんは認知症の父親(78歳)の介護を始めることになりました。
取り組み:
- 週3日のテレワークと2日の出社という働き方に変更
- 出社日はデイサービスを利用
- テレワーク日は午前中に集中して業務を行い、午後は短時間の会議のみに参加
- GPSつきの見守り端末を父親に持ってもらい、安全を確保
効果:
- 介護離職を回避しながら、父親の在宅生活を継続できている
- 仕事の生産性も維持できている
事例2: Bさん(52歳・製造業勤務)の場合
Bさんは脳梗塞で倒れた母親(80歳)の介護が必要になりました。
取り組み:
- 時短勤務(6時間勤務)に変更
- 介護休暇を必要な時に時間単位で取得
- 兄弟と介護の分担スケジュールを作成
- 会社の介護コンサルティングサービスを利用して制度を理解
効果:
- 家族間の協力体制が整い、一人で抱え込まない介護を実現
- キャリアを継続しながら介護に関われている
事例3: Cさん(47歳・小売業勤務)の場合
Cさんは遠方に住む両親(父84歳・母82歳)の介護が必要になりました。
取り組み:
- 月1回の特別休暇を取得して実家を訪問
- 地元の地域包括支援センターと定期的にオンラインで情報共有
- 近所に住む親戚にキーパーソンを依頼
- 見守りサービスと食事宅配サービスを組み合わせて利用
効果:
- 遠距離でも親の状況を把握できている
- 緊急時の対応体制が整っている
相談窓口と情報収集のポイント
公的な相談窓口
- 地域包括支援センター: 介護全般の相談
- ハローワーク: 両立支援の相談、助成金情報
- 労働局・労働基準監督署: 労働関係法令の相談
- 年金事務所: 介護休業給付金の申請手続き
民間の相談窓口
- 企業の福利厚生サービス: EAP(従業員支援プログラム)など
- 介護関連NPO・団体: 介護離職防止に取り組む団体も増加
- 介護経験者コミュニティ: SNSやオンラインコミュニティでの情報交換
情報収集のポイント
- 複数の情報源を活用: 一カ所だけでなく、様々な角度からの情報収集
- 実際の体験談を重視: 制度だけでなく、活用事例も参考に
- 最新情報のアップデート: 制度は変更されることも多いため定期的な確認を
- セミナーや勉強会への参加: 対面・オンラインを問わず積極的に情報収集
介護と仕事の両立のための準備チェックリスト
介護は突然始まることも多いため、事前の準備が重要です。以下のチェックリストを参考に、今からできることを進めておきましょう。
情報収集と理解
□ 介護保険制度の基本的な仕組みを理解している
□ 自社の介護関連制度(休業、休暇、時短など)を確認している
□ 親や家族の介護についての希望や考えを話し合ったことがある
□ 地域の介護サービス事業者について情報収集している
□ 親の居住地域の地域包括支援センターの連絡先を把握している
働き方の検討
□ 介護が必要になった場合の理想的な働き方を考えている
□ 上司に介護の可能性について事前に相談している
□ リモートワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方の可能性を検討している
□ 介護休業を取得した場合の収入シミュレーションをしている
□ 業務の引継ぎ資料を作成している
経済的準備
□ 介護のための貯蓄や保険を検討している
□ 介護にかかる費用の目安を調べている
□ 親の収入や資産状況について把握している
□ 介護休業給付金の支給要件を確認している
□ 自治体独自の介護支援制度について調べている
家族・サポート体制
□ 家族内での介護分担について話し合いをしている
□ 兄弟姉妹との連絡体制を整えている
□ 遠距離介護になる場合の地元協力者を検討している
□ 介護について相談できる専門家を知っている
□ 介護経験者のネットワークやコミュニティを見つけている
おわりに
介護離職は、知識の不足や孤立感から選択してしまうケースが少なくありません。しかし、適切な情報と準備、そして周囲のサポートがあれば、仕事と介護の両立は十分に可能です。
重要なのは、「完璧な両立」を目指すのではなく、自分と家族にとっての「ベストバランス」を見つけること。自分の健康を犠牲にした両立は長続きしません。
また、介護は状況が変化していくものです。定期的に立ち止まって現状を見直し、必要に応じて働き方や介護の方法を調整していくことが大切です。
この記事が、介護と仕事の両立に悩む方、またはこれから介護に直面する可能性のある方にとって、一助となれば幸いです。誰もが直面する可能性のある介護。その時に「選択肢がある」と知っておくことが、最大の準備になるのではないでしょうか。
※本記事の内容は2025年4月時点の情報に基づいています。制度は変更される可能性がありますので、実際の利用にあたっては最新の情報をご確認ください。


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